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Liebe zwei「Aversion-嫌悪-

 教団の食堂の入り口でアレンと神田は鉢合わせした。
「どうぞ、お先に。僕は注文する数が多いから」
 そう言ってアレンは神田に注文の順番を先に譲った。
 そんなアレンを一瞥し、神田はカウンターで料理長の ジェリーに蕎麦を注文した。
「あら、それだけ。他には?天ぷらはどう?」
「蕎麦だけでいい」
「そう。じゃ、これ」
 ジェリーは蕎麦を載せたトレーにピルケースを置いた。
 神田は無言でトレーを受け取ると食堂の窓際の席へと歩いていった。
 次にアレンの注文を受けたジェリーは相変わらずの数の多さに
「まったく、同じエクソシストというのに神田の小食とは対照的ね」
 と笑った。
 思わず
「すみません」
と謝るアレンに
「あら、いいのよ。喰いっぷりがいい方が安心できるわ」
 と ジェリーはウインクする。
「よお、アレン」
「アレンくん」
アレンに声をかけてきたのは、科学班班長のリーバーとアレンと同じエクソシストの少女リナリーだった。
「リーバーさん、リナリー」
 食堂にやって来た二人は、アレンのトレイにあふれんばかりの料理を見る。
「食欲旺盛だな」
 そうアレンに言う科学班班長のリーバーは仕事が相変わらず忙しいようで少々お疲れのようだ。
 取りあえず、受け取れるだけの料理を受け取って、アレンは食堂のテーブルについた。
注文した残りの料理は出来次第テーブルに運んできてくれる。
後から注文を終えたリーパーとリナリーもアレンと同じテーブルの席につく。
食事には中途半端な時間帯で、食堂は空いていた。
離れた窓際の席には神田が一人で座っている。
料理を食べる手を休めず、アレンは視線の先を神田に向けた。
そんなアレンに気づいたリナリーが言う。
「神田が気になる?」
「え!? 神田じゃなくて、気になってるのは食べてる蕎麦の方ですよ。」
 アレンは即座に否定した。
「なんか美味しそうだから、今度頼んでみようかな」
 もちろん蕎麦は気になっていたが、否定しながらもやはり自分が神田を気にかけていることをアレンは自覚する。
「君の食欲を神田にわけてやりたいね」
 リーバーが苦笑しながら言う。
「僕のイノセンスは寄生型だから大食いになるんです」
「神田の方は装備型だけど、それにしても彼はもう少し食べないとなぁ」
 リーバーは軽くため息をついた。
 この距離なら大声でない限り、神田のいるテーブルまでは会話は聞こえないだろう。 アレンは訊いてみる。
「神田はどこか悪いんですか?」
「なぜ?」
「ジェリーさんがピルケース渡してた。 何の薬でしょう?」
 その白いピルケースは、ここからでも神田のトレーにあるのが見て取れる。
「サプリメントだよ」
 とリーパーが答えた。
「蕎麦には健康によい成分も入ってはいるけど、蕎麦だけじゃ栄養が偏るからね。 あのサプリメントは、コムイがジェリーに神田の様子を見て渡すように頼んであるんだ。 ほんとに、彼はもっとしっかり食べないと…」
「そうですよね。あれでよく体力が持つなぁ」
 アレンがちょっと感心したように言う。 神田とは一緒に戦って、その戦いっぷりは知っている。 食が細いことなど感じさせない、むしろ、タフともいえる戦いっぷりだ。 そして、異様に早い傷の癒え方。
 アレンは一番最初の任務で、神田と組んでマテールに行った。 神田はそこでの戦闘で、どう見ても全治五ヶ月という傷を負って入院したはずなのに、数日後には、もう治ったと言っていたのだ。

  アレンほど喰えとは言わないが、せめてもう少し食べてくれよと神田を見てリーバーは思う。 それは、神田のためにサプリメントを用意した室長のコムイも同じ思いなのだろう。
 ちゃんと食べてほしい。
 命を削るのを早めないためにも。
 だが、それを神田に言っても無駄なことはわかっていた。 リーバーは、現室長のコムイが赴任してきた前からここで科学者として働いていた。 コムイは時として目茶区茶だと思えるが、彼が赴任してきたことで、この黒の教団本部の雰囲気はよい方に変わったとリーパーは思う。 前任者の室長だった人物は、老境に差し掛かったドイツ人で、名をシュテインと言った。 同じドイツ人ということでなのか、シュテインはリーパーを自分の助手として起用した。

 …そして、彼の助手となったリーパーは、シュテインによって神田がどんな目に遭ったかも知っていた。

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